『会社を守る知的戦略、攻める知財戦略』


『会社を守る知的戦略、攻める知財戦略』okuda04yoko



弁理士と聞いてどのような仕事をする人か、正確に説明できる人はほとんどいないのではないでしょうか。しかし弁理士は知的財産を守るという、企業にとって非常に重要な仕事をしています。今回は会社を守る知的戦略について、奥田国際特許事務所の代表弁理士・奥田律次さんにお話を伺いました。




弁理士の仕事


-弁理士の仕事を教えてください

理士は知的財産を守る仕事をしています。知的財産とは、特許・実用新案・意匠・商標を指します。特許と実用新案はアイデアを保護するもので、意匠はデザインを表し、商標は商品名やサービス名のことです。商品名やサービス名は、長い間使われることで名前に価値が生まれてきます。例えば「宅急便」はクロネコヤマトの商標なんです。一般名詞と思いきや、固有名詞なんですね。これらを守ることが弁理士の仕事です。また特許は発明しただけでは権利を主張できません。特許を出願して初めて権利が生まれるのです。その出願手続きの手伝いをするのも弁理士の仕事です。


-弁理士はどのタイミングで企業と関わるのでしょうか?

okuda03発明と言うのは、発明された瞬間を立証するのが難しいので、日本では特許を出願した早いもの順で特許が認められます。これを先願主義と言います。そのため、発明が完成した段階で特許を出願しようとしても、他の人が先に特許を申請していれば特許は認められません。できればアイデアの時点で弁理士に相談してほしいと思っていますが、なかなかそうではないのが現状です。また、バイオ等の科学技術は日々の研究の積み重ねでやっと開発に至ることも多いと思いますが、とはいえぐずぐずしていると先を越されてしまうので、開発できそうとわかった時点で弁理士を含めて協議することが重要です。

特許はその出願書の記載方法でも、有効に活用できる特許になるか、そうでなくなるかがわかれます。その特許の切口や、カバーする範囲などで会社を守るための知財として、さらには攻めるための知財戦略としての有効性が大きく変わってくるのです。また、単に出願するだけではなく、出願しないという戦略もあります。企業は知財だけで会社を守るわけではなく、人材、資金、ブランド等々全てのリソースを総合的に投入することと、そのバランスを考えることが経営です。。その重要な要素の一つが知財であり、知財戦略は経営戦略そのものなのです。

知財戦略は、経営の重要な要素であると考えるならば、特許出願時に初めて弁理士と関わるのではなく、日々の経営の一環として弁理士の知恵を会社に取り入れることが重要になります。特に、中小・中堅企業では弁理士との付き合いがない会社も多いとは思いますが、知財を経営リソースとして活用しようと考える場合に、積極的に弁理士を日々の経営に巻き込んでいくのは重要だと思います。


知的財産をめぐるトラブル


-知的財産をめぐってトラブルになるのはどういう時ですか?

基本的に特許を出願する前に発明を人に話してはいけません。人に話してしまうと、発明が公共物になったと見なされ、特許出願の条件である新規性が失われますので特許を出願できなくなります。ただし学会や指定された博覧会での発表などは例外になります。ある会社では、特許出願準備中に、研究者謙社長がマスメディアの取材に答えてしまい特許が取得できなかったといったケースがありました。

また会社を設立するときには司法書士のところに行って商号の調査をすることになりますが、ここで同時に商標も調べてほしいですね。出願中に先願があるとその出願は無効になってしまいますから。先願があることを知らずに商標を使っていると商標侵害になってしまいます。企業は商標の先願があるかどうか調べる義務がありますから、不注意では済まされません。過失があったと認められた場合、損害賠償請求されることもあります。企業のブランディングのために、企業名(商号)や商品名、店舗名を、一生懸命考案しますが、その際に商標調査を行っている中小企業はまだまだ少ないと思います。せっかく時間とお金をかけてその名称を育て上げて、認知度があがったところで、実は他社がその商標をもっていて、使用が差し止められたというような事態は避けなければなりません。


-最近では国家間でトラブルが起きることもありますね

特許は属地主義と言って、ひとつの発明を他の国で独占的に使用したいと思えば、それぞれの国で特許を取らなくてはいけません。例えば、バイオであればアフリカやアジアなど、材料の生産地・商品の製造地・販売地を中心に特許を取得するのが通常です。世界統一の特許システムがあればいいのですが、アメリカが開発者主義をとっていることもあって実現していません。世界中の国々に特許出願できれば良いのですが、予算には限りがあります。限られた予算を効果的に配分する必要があり、どの国に出願をすべきかをよく検討することが重要です。また、商標などは既に登録されてしまっているケースもよく起こります。最近よくニュースなどでも報道されますが、中国では日本の県名などが商標登録されてしまっています。インターネットの普及などで中小企業や個人事業者まで外国のマーケットをターゲットにして商売が比較的簡単にできるようになってきました。だからこそ、外国での商標のトラブルにも気を使わなくてはいけない時代に入ってきたと思います。


-技術を他社に盗まれるのを懸念して特許を申請しない会社があります

特許を申請すると、その詳細を公のものとして公開するために、技術が漏れてしまいます。もちろん特許を取得すれば、その技術をそのまま真似されることを防ぐことはできますが、その技術をもとにさらに一段上の技術をライバル会社が開発してしまうリスクを併せ持ちます。

モノの発明ですと、例えばその商品を分解すれば誰でもそのアイデアを理解することができます。例えば、新型のロボットを作ったとしても、そのロボットを分解すれば、その構造を盗むことはできてしまいます。そこで、こういったモノの発明の場合には、特許を申請してもしなくても他社は追随しますので、特許を申請して防御をします。これにより、他社が真似することを防ぐことができる防御にもなります。さらには他社が、わざわざ自社で膨大な開発費をかけることをやめ、特許使用料を支払うことを選択することも考えられます。このような方向に持って行ければ、特許使用料をもらうというビジネス展開ができ、攻めの特許戦略がとれます。しかし製造方法やノウハウなど、商品を単体で見てもアイデアを盗めない場合は、特許を出願しないという戦略もあります。コーラの製造方法などは公にしないために特許を取得していません。また、特許期限が切れてしまった場合にはまったく同じものを作ることが可能になってしまうため、それを防ぐ効果もあります。特許を取得することによって得られるメリットに、ロイヤリティー収入がある、ということが挙げられますが、実際にはロイヤリティー目的で出願する人はあまりいません。アイデアを独占することが目的なのです。アイデアを独占するという意味では、特許を取得せずにアイデアを自社内のみに留め、他社に追随させないという戦略も考えられます。他社に追随させないことでブランド力を高め、自社で大量生産してコストを下げる、ということもできます。逆に考えると、大量生産する体力を持っていない会社は、特許を出願して、他社に大量生産をしてもらうことでロイヤリティーをもらうということも考えないといけないかもしれません。これが特許戦略です。このように、特許戦略は経営戦略の一部と言えます。自社の経営リソースを考え、どう戦うか、いかに攻めて、いかに守るかを考える経営そのものとして特許を重視することが重要です。


企業がとるべき道


-中小企業は大企業と違って知的財産部がない場合があります

大企業であれば経営戦略の一環として知的財産部を構え、社員として弁理士を雇っていることもありますが、体力のない中小企業は知財戦略をアウトソースすることになります。その際は中小企業の知財を得意としている事務所を探してください。経営戦略の一環である知財戦略のアウトソーシング先となる重要なパートナーです。そのためには知財の知識はもちろんですが、経営に関する知識、中小企業が生き延びていく知恵を有し、中小企業経営者と一緒に、企業の将来像を話し合える相手が必要です。また、そうした事務所は特許審査請求にかかわる中小企業の特典などにも精通しています。費用が半額になる減免猶予などもあるので、中小企業は積極的にそのような特典を活用すべきです。このあたりを企業側が事前に事務所に問い合わせてみることも必要です。


-企業は弁理士とどう付き合っていくべきなのでしょうか?

まず企業は開発を行う時はなるべく早めに弁理士に相談してください。企業が自ら発明を公開してしまったケースなど、もっと早く弁理士が入っていれば…と思う事例は多くあります。また企業には弁理士を育てるという役割もあります。お抱えの弁理士を雇うことで、その弁理士はその会社の技術に精通することができます。技術に精通していれば正確なアドバイスができますし、特許の申請には審査だけでも30カ月かかりますから、顧問弁理士がいることはより有利な特許戦略を練ることに繋がります。企業の立場からしますと、弁理士とは長い付き合いになりますのでよく選んでほしいと思います。自社の専門分野について詳しい弁理士であるか、そのうえで発明上の課題を見つけ出してくれるか、経営上のアドバイスができるかなどプラスアルファのことをしてもらえるかをよく見極めてください。大きい事務所ならいいということもなく、大きい事務所は大企業のクライアントを多く抱えているケースも多く、大企業の知財戦略に慣れているが、中小企業の知財戦略は得意ではないケースもあります。小さい事務所ですと専門分野を扱える弁理士がいない、ということもあります。弁理士事務所が口コミで紹介されることが多いのはこうした理由もあるのかもしれません。その中で、自社の強みを理解し、体力のない中小企業を知財をつかって、どう成長させていけば良いのか経営者と一緒になって企業の将来像を考えられるパートーナーとなりうる弁理士を見つけ、長い付き合いをしていくことが重要だと思います。



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